心筋梗塞は、年間約3〜4万人が命を落としている心臓の病気です。
60代以降に多く発症し、突然激しい胸の痛みに襲われ、「火箸で刺されたような痛み」「えぐられるような痛み」と表現する人もいるほどの苦しみを伴います。
医療技術が発達した現代においては、生きて病院に搬送されれば、救命率が非常に高くなっていると言われています(死亡率20%⇒5%)
しかし、それでも毎年3万人以上、新型コロナウイルスで亡くなる方よりも多くの方が命をおとされています。
また、心筋梗塞で亡くなられる方の約半数が院外死亡(病院に搬送される前に亡くなっている)という事実や、発症すると致死率が20~30%と、依然として突然死に繋がる重大な病気の一つです。

心筋梗塞を疑う危険な症状(救急車を呼ぶ症状)

  • 心臓を握られるような感じ
  • 胸を押さえつけられている感じ
  • 胸が熱くなる、焼けるような感じ
  • みぞおち辺りの重苦しさ
  • 胸の強い痛み

など、胸からみぞおち辺りにかけての「痛み」「圧迫感」「苦しさ」を自覚します。
また、加えて「冷や汗」や「吐き気」「嘔吐」「息苦しさ」「動悸」などの症状が加わるとさらに心筋梗塞を強く疑う症状になります。
もし、今までに感じたことのない強い症状であれば、直ぐに誰かに助けを求めるのと同時に救急車を呼びましょう。
直ぐに救急車を呼ぶが迷う位の症状であっても、これらの症状が5分、10分と経つうちにドンドン酷くなっていく、回復する予兆がないような場合は、迷わず救急車を読んで一刻も早く医療機関を受診して下さい。

心筋梗塞の年間の死亡者数は毎年3万人以上ですが、その半数以上が病院に搬送される前に亡くなっているとされています。心筋梗塞は、不整脈やショック状態など様々な合併症を引き起こします。もう少し様子を見てからと躊躇しているあいだに急変して、命を落としている方が多いのかもしれません。
繰り返しになりますが、今までに感じたことのない強い症状であれば、直ぐに誰かに助けを求めるのと同時に救急車を呼びましょう。
直ぐに救急車を呼ぶが迷う位の症状であっても、これらの症状が5分、10分と経つうちにドンドン酷くなっていく、回復する予兆がないような場合は、迷わず救急車を読んで一刻も早く医療機関を受診して下さい。

一旦治まっても、安心できない!

心筋梗塞の程度が比較的軽い場合には、数時間経つと症状が落ち着いてくる場合があります。
これは心筋梗塞が治ったわけではなく、心臓の組織が死滅してしまい、痛みの感覚がなくなったためです。
痛みや苦しみは軽くなるかもしれませんが、発症直後から数日間にかけては、命に関わる不整脈や、急性心不全、心臓破裂といった合併症が起きる可能性があり、集中治療室で管理を行うレベルになります。
ですので一旦症状が軽くなったとしても、可能な限り早く医療機関、できれば心臓の専門である循環器内科を受診して下さい。

こんな症状も心筋梗塞!?

心臓の病気なんだから心臓の周囲に症状が現れるものと考えたくなりますが、心筋梗塞を起こした患者さんに当時のエピソードを伺うと、胃の不快感、歯の痛み、背中や肩・腕のだるさといったように、一見心臓とは無関係な場所に痛みやだるさといった症状が現れる場合もあります。私の経験上からも1/3位の方にみられる印象があります。
これらは関連痛または放散痛と呼ばれるもので、実際に問題が起きているのは心臓なのに、別の場所で症状を感じてしまうことがあります。
いつもある痛みや、動かしたときにだけ痛む場合、1分以内で消える痛みの場合には、心筋梗塞の可能性は高くないと考えますが、普段はそんな場所に痛みや違和感を感じない方、60歳以上の方や、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病がある、喫煙しているなど心筋梗塞を起こしやすい要素を持っておられる方だったり、多少なりとも胸のあたりの違和感を感じる、冷や汗や動悸、息苦しさを自覚しているなどが重なると、心筋梗塞を強く疑う症状になります。

心筋梗塞は、心臓の筋肉が窒息死する病気です

心臓に酸素や栄養を届ける血管を冠動脈(かんどうみゃく)と言います。何かしら原因で冠動脈に傷がつき、そこから血管の壁の中にコレステロールなどが沈着するとプラークという瘤(コブ)が形成されます。そしてこのプラークが血管の内側で破裂すると、血小板などが集まり血の塊をつくります(図を参照)
血管の内側にできた血の塊により、血管が塞がれてしまい、その先の心臓の組織に血液を送ることができなくなります。酸素が溶け込んだ血液が届かない心臓の組織は、まさに窒息状態です。窒息に陥った心臓の細胞が次々に壊死を起こしていきます。
心臓組織の窒息死・・・これが心筋梗塞です。

心筋梗塞を起こした心臓は、血液ポンプとしての働きを正常に行う事が難しくなるため、全身の血流不足(心原生ショック)を起こしたり、命に関わるような重症不整脈(異常な電気の嵐)が起きたり、窒息死した心臓組織(壊死した心臓組織)は脆くなるために心臓破裂を起こしたりなど、とても危険な状態を引き起こす可能性があります。

現代医療では、これらの緊急事態への対応が出来るほどに、医療技術、医療機器が進歩しきましたが、それでも年間約3万以上の方が命を落とされておりますので、心筋梗塞を起こした方を救う力を上げていくだけでは不十分です。
当院では、そもそも心筋梗塞を起こさないようにするため、心筋梗塞の原因となる基礎疾患の管理(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満の是正、運動不足の解消など)を行う事、またその重要性を患者様にお伝えすること(情報発信)に努めています。

心筋梗塞の検査について

心電図検査

心筋梗塞を起こした心臓は、特徴的な電気的異常(ST上昇)を引き起こす為、これを心電図で捉えます。ただし、発症後すぐだと変化が表れない場合や、発生している心筋梗塞の部位によっては、変化が表れづらいことがあるというデメリットもあります。心電図に特徴的な変化が無いからと言って、心筋梗塞を否定することはできません。時間を置いて何度も測定することが重要です。

採血

心臓が窒息死(壊死)した結果として、心臓の細胞から漏れ出た成分(ミオグロビン、CK-MB、トロポニンなど)を採血で捉えます。当院では15分ほどで結果がでる迅速心筋トロポニン検査を実施致します。トロポニンは心筋梗塞発症後3時間頃から上昇し始めるとされており、心電図同様に心筋梗塞発症直後の場合は検査が陰性になる事もあります。その際も、典型的な症状が持続していれば、引き続き要観察となります。

心臓超音波検査

心臓超音波検査では、心臓の動きや、血流が正常に流れているかをみることができます。心筋梗塞を起こした心臓の部位は動きが悪くなったり、全く動かなくなります。心臓の一部分だけの動きが悪くなるのは、心筋梗塞に特徴的な所見です。また、心臓のどの部位の動きが低下しているかを知ることで、どの冠動脈に異常が生じているかを判断したり、心筋梗塞による合併症である心不全の程度を把握するなど、治療方針の決定に有用な検査です。
心筋梗塞の発症直後で、心電図や採血に異常を認めない場合でも、心臓超音波検査で心臓の動きの異常を捉えられることがあります。

胸部レントゲン撮影

心筋梗塞を起こすと、血液ポンプとしての働きが急激に悪くなるために、急性心不全(急性のポンプ失調)を起こすことがあります。心不全状態になると肺が水浸しになるので、うまく呼吸が出来ず「息苦しさ」や「呼吸困難」といった呼吸症状を自覚するようになります。
通常の肺のレントゲンは真っ黒ですが、水浸しになった肺のレントゲン画像は真っ白になります。
心筋梗塞でこの心不全を起こしているかいないかは、重症度を左右する決め手にもなります。

心筋梗塞の治療について

心筋梗塞はとても危険な病気で、一刻も早く詰まった血管を開通させ、心臓の細胞への血流を回復させなくてはなりません。
内科的な治療としては心臓カテーテル治療、外科的な治療としては心臓バイパス術があります。

心臓(冠動脈)カテーテル治療

①カテーテルの挿入

あしの付け根や、手首の動脈からカテーテルという管を挿入し、X線を併用して心臓の血管(冠動脈)まで到達させます。

②血管閉塞部位の特定

冠動脈の入り口に到達したら、造影剤を注入し、レントゲン画像で造影剤が血管を流れていくのかを確認します。流れていくはずの血管に造影剤が流れていかなければ、そこが心筋梗塞の原因となった血管部位だという診断がつきます。

③治療

血管を塞いでいる血栓があれば吸引します。次いで、動脈硬化で狭くなった血管をカテーテルに着いた風船を膨らませることで、血管を押し広げていきます。そして、広げた血管がまた縮んでこないようにステントという金属の柱を血管内に埋め込み、治療が終了します
治療時間は1時間程度で終わる事もありますが、手ごわい病変だと2時間以上かかる場合もあり、見た目以上に大変な治療となります。

心臓(冠動脈)バイパス術

血管が詰まっている場所を飛び越えて、血液が流れるバイパス(迂回路)を作る手術です。2012年に上皇陛下がお受けになられた手術として有名です。
心臓の血管の代わりになる血管は、内胸動脈、橈骨動脈、右胃大網動脈、下腹壁動脈などの動脈や、大伏在静脈などが用いられます。
バイパス術は胸を開き心臓を露出させる手術となりますので、全身麻酔下で実施されます。
バイパスを行う血管の直径は1~2mm程度で、髪の毛ほどの針糸で吻合します。以前は人工心肺装置を用いて、心臓を止めて手術を行っていましたが、近年では心臓を動かしたままでバイパス手術を行う心拍動下バイパスが主流になりつつあります。心臓を止めて行うのか、うごかしたまま行うのか、それぞれにメリットデメリットがありますので、手術を受けられる患者さんの状態に応じて最適な手術が選択されています
手術時間は血管をつなぐ本数などにより変化しますが、早ければ2時間程度です。

心筋梗塞は再発する?

結果から申し上げると「再発する可能性があります」
これは心臓カテーテル治療も、冠動脈バイパス術も、心筋梗塞を起こした原因の治療を行ったわけではないからです。
こんなに辛い症状を経験し、大変な治療を行ったのでもう二度と経験したくないですよね。
心筋梗塞の再発を予防するためには、その原因を取り除く対策が必要となります。

心筋梗塞の原因って?

ではここで改めて、心筋梗塞の原因についてお伝え致します。
血管の壁に血液中に存在する脂質の一種であるコレステロールなどが入り込み、こぶのように盛り上がります(心筋梗塞の卵です)
コレステロール瘤(こぶ)と言ってもイメージがつかないと思いますが、顔にできるニキビと同じような物とお考え下さい。ニキビもあぶらなどが皮膚の下に溜まって、コブをつくりますよね。これと同じようなことが血管の内側で起こっているとお考え下さい。
血管の場合、このこぶが大きくなると血管の内側に張り出してくるため、血流が障害され、心臓の筋肉に十分な血液を運べなくなります。
このように血管の壁にコレステロールなどが溜まって、血液を通すという機能が損なわれた血管の状態を動脈硬化と呼びます。
動脈硬化のある血管に何らかの刺激が加わると、血管の内膜が破れ、内膜の内側にたまっていたコレステロールなどが漏れ出します。これに血小板が集まることで血栓が作られることで血管を詰まらせてしまいます。これが心臓の血管が詰まる、心臓の組織が窒息死する心筋梗塞が発生するまでの流れです。

では、この動脈硬化がなぜ起きてしまうのか。
血流障害を起こす動脈硬化は、加齢により誰でも進んでいきます。いわば血管の老朽化です。
しかし年齢以外にも、運動不足や喫煙習慣、食生活の乱れが続くことによって、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満といった生活習慣病を患うようになると、この動脈硬化の進展速度を速めてしまうことがわかっています。
日本人を対象としたJPHC研究では、喫煙者は非喫煙者に比べて心筋梗塞の発症リスクが3倍、糖尿病患者では心筋梗塞のみならず脳梗塞など心血管疾患の発症リスクが2~4倍高いと報告されています。
実際診療を行っていて、心筋梗塞や狭心症など冠動脈疾患を有する方の半数近くに糖尿病を患っている方、喫煙歴のある方を多く見かけます。

心筋梗塞後の日常生活について

以上のように心臓カテーテル治療、冠動脈バイパス術で救命がなされた後は、病状の安定化と再発予防に向けた治療を継続していくこととなります。

  1. 内服治療
  2. 禁煙
  3. 運動療法、食事療法
  4. 心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションの詳細はこちらも参照下さい。

内服治療

1つ目は、血栓を予防するくお薬です。
心臓カテーテル治療で血管内にステントという異物が挿入されたり、心臓バイパス術で血管縫合がなされたりと、その部位で血栓形成が起きやすい状態となります。
治療内容や個人差もありますが、3カ月から6カ月間は、血液が固まりにくくなるお薬である抗血小板薬を2種類内服します。
現在はその後も出血リスクなどが高くなければ、1種類の抗血小板薬を生涯にわたって内服することが薦められていますが、今後の臨床研究などにより変わってくることもあるかもしれません。

禁煙

禁煙無しに動脈硬化の進展を抑制したり、心筋梗塞の発症を抑制することは難しいと考えられます。煙草には200種類以上の有害物質が含まれています。
最近増えている加熱式電子タバコも、複数の発がん性物質、血管を炎症させ動脈硬化を促す化学物質がタバコと同程度に含まれています。
タバコによる血管への炎症作用が心筋梗塞の原因となる動脈硬化(血管の内側にコレステロールが入り込み瘤を作る)の一因となります。
また、喫煙者では、悪玉とされるLDLコレステロールを回収する働きのあるHDHコレステロールの値が非喫煙者よりも引きやすく、血管炎症と共に心筋梗塞の原因である動脈硬化の進展を促進します。
禁煙がむずかしいのは、タバコに含まれるニコチンへの薬物依存である「身体的依存」と喫煙習慣による「心理的依存」の2つの依存を同時に克服していかなくてはならないからです。
決して意思の強さの問題ではありませんので、禁煙外来など専門的な治療を受けることも選択肢の一つです。

生活習慣改善

運動不足、喫煙、肥満、偏食や過食などの生活習慣の乱れは糖尿病や高血圧症などの生活習慣病を進行させやすくします。
生活習慣病は、狭心症の原因となる動脈硬化を引き起こす引き金ですので、
お薬を飲むことで、これらの悪影響が無かったことにはなりませんので、問題となっている生活習慣を見直すことがとても大切です。
心筋梗塞の再発予防プログラムでもある心臓リハビリテーションでは、運動療法をきっかけとして食事改善や禁煙サポートなど、総合的な心臓疾患の管理を行うことにより、再発や再入院率の低下を実現させています。

運動療法

運動は薬だといわれますが、心筋梗塞によりダメージを受けた心臓も適切な運動療法により機能が維持・改善されることが期待できます。ウォーキングなど全身運動を1回あたり30分程度、無理なく会話できる程度の楽なキツさで行う事、また週に合計150分以上行うことが推奨されています。
運動は血管や筋肉、自律神経系など体中の様々な器官にいい影響を及ぼします。これはどんな薬にも出来ないことで、逆に運動しないメリットが無いと言えるくらい効果の期待できる治療方法です。

心臓リハビリテーション

運動療法、心臓リハビリテーションについての詳細はこちらを参照

このように動脈硬化を引き起こす生活習慣の改善、血の塊ができないようにするためのお薬の内服、適度な運動といった患者さんご自身の力も、「良好な心不全管理」には非常に重要なポイントととなってきます。
実は、心筋梗塞の再発予防に医療側が出来ることというのはそれほど多くありません。患者さんご自身に頑張っていただく部分も少なくなく、それをサポートする仕組みが心臓リハビリテーションです。
心臓疾患専門のチームで構成される心臓リハビリテーションは、患者さん個々の疾患や病態に応じて適切な運動プログラムを提供し、良好な心機能の維持、良好な疾患管理のサポートを行います。
心臓リハビリテーションに参加することで、通常の治療のみの場合に比べて、心臓関連死を減少させるだけでなく、あらゆる死亡率をも軽減させる効果が期待できます。
心筋梗塞に対する心臓カテーテル治療後の治療ガイドラインにおいても、心臓リハビリテーション実施の推奨度は最高ランクに位置付けられています。
心筋梗塞の治療を受けられてた方は、お近くに心臓リハビリテーションを実施している医療機関が無いか検索していただき、一度プログラムを受けられることをお勧めいたします。