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心不全とは
心臓は全身に血液を送り出し、酸素や栄養を届けるとても大切なポンプの働きをしています。そのポンプが上手に働かないと、全身の様々な場所で問題が起こり、心不全の症状が出現します。
「心不全」とは病名ではなく、心臓のポンプ機能が不十分な結果として生じるからだの症状のことをいいます。
日本循環器学会では、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」と定義しています。
入院してくる心不全患者さん
循環器病棟で心不全患者さんの診療に携わっていた時に、患者さんに入院してきた時の症状をうかがうと、「息が出来ない」「吸っても吸っても苦しい」「咳が止まらなくてもう死ぬかもと思った」と息苦しさに関する答えが大半でした。
実際に入院が必要な心不全の状況というのは、陸上にいながら水に溺れているのと同じような状況であると、患者さんに説明しています。
心不全の症状
心不全の症状は全身に現れるため、非常に様々な症状が現れるというのが特徴です。
心不全と呼吸症状
◆少し動いただけで息が切れる、肩で息をしている
◆常に息苦しさを感じる
◆夜寝ている時や横になっていると息苦しくなる
◆咳が出る
心不全と胸の症状
◆動悸(少し動くだけで鼓動が速くなる)
◆胸痛
動いたときの息苦しさを胸の痛みや、胸の圧迫感などと感じることがあるかもしれません。
心不全とむくみ
◆両足がむくむ
◆体重が増える
血流の流れが滞ることで、静脈系のうっ血(血液の渋滞)が起きやすくなります。
うっ血が足や腕、顔に起きると「むくみ」として現れますが、重力の影響を考えるとむくみは足(膝から下)に自覚しやすいと考えられます。
また、腎臓で尿を作る機能が低下することもむくみを助長させます。食べてないのに太る、1週間で2jkg以上体重が増えるなどがあれば、心不全のサインかもしれません
心不全と腹部症状
◆食欲低下
血液のうっ滞により、胃や腸にも「むくみ:浮腫」が起きます。
腸管がむくんで腸の動きが悪くなると、食欲不振や吐き気などの症状につながります。
心不全と腎臓
◆トイレ(排尿)に行く回数が減る、尿量が減る
心不全とその他の症状
◆手足の冷え
◆低血圧
◆疲れやすい、だるい
◆首の血管が腫れる
心不全の原因
心不全は様々な病気の行き着く先であるため、その原因も多岐にわたります。
◆虚血性心疾患(心筋梗塞、虚血性心筋症)
◆高血圧症
◆心臓弁膜症
◆不整脈
◆糖尿病
◆貧血
◆腎不全
◆薬剤(抗癌剤など)
特に心筋梗塞などの虚血性心疾患、高血圧症、心臓弁膜症は3大原因とも言われます。これらの病気の治療中の方で、上記の様な自覚症状を感じた場合は、心不全状態になっている可能性がありますので、早めに循環器内科を受診しましょう。
夕陽ヶ丘ながいクリニックでは、適切な検査および診療を行い、必要に応じてより高度な検査・治療が受けられる基幹病院への紹介もさせて頂きます。
心不全の検査と診断
心不全の診断は、体に現れている「症状」と、各種検査データによりなされます。
①問診、身体所見
むくみや息切れ、体重増加などがいつから現れているのか、どの程度の速度で悪化していきているのかなどを伺います。
また心不全の原因となる病気や、服用しているお薬の確認を併せて行います
②検査
◆聴診
心不全による血液のうっ滞などが起きると、異常な心音が聴かれるようになります。
また、心不全の原因となる弁膜症の発見にも聴診は重要です
◆胸部レントゲン撮影
心臓の大きさや、肺の状態を確認します。
心不全では、心臓が大きく写ったり、肺が白くぼやけて写ったりするなどの異常所見がみられます
◆採血
BNPやNTproBNPは、心不全の重症度と相関するとされており、心不全の重症度を数値で評価すること以外にも、息切れや胸部症状がそもそも心不全によるものなのかを評価するためにも用いられます。
また、肝機能や腎機能、貧血なども、心不全の治療方針を立てるうえで重要な項目となります
◆心電図
心臓が正常に動くための電気系統を確認する検査です。
心不全の影響により心電図異常が現れることもありますし、不整脈など心臓の電気系統のトラブルが心不全を起こしていることもあります。
◆心臓超音波検査
心臓の形や弁の機能、血流の状態を測定する検査です。心不全の重症度を評価したり、心不全の原因が心臓にあるのかどうかを評価するために行います。
以上の所見を組み合わせて心不全を診断します。
心不全治療の全体像
心不全には治療時期の区別として、急性心不全と慢性心不全とに分けられますが、急性心不全の場合は外来で治療することは困難であり、多くの場合は入院して治療することとなります。
また、退院後も安定した病態管理を目指す段階として、かかりつけ医等で慢性心不全の治療が継続されます。
急性心不全の治療
心臓のポンプ機能が破綻し、生命の危機に陥っている状況です。
急性心不全の治療目標は、「命を救うこと」と「速やかに症状を改善させること」です。
絶対安静のうえ、呼吸を楽にするために酸素を投与したり、体に溜まった余分な水分を排出させるための利尿薬の使用、強く収縮した血管を広げる血管拡張薬、心臓のポンプ作用を無理矢理上げる強心薬やなどの薬剤を用いて血液の循環を改善させることを目指します。
薬剤で循環動態が保てない場合には、IABPやPCPSといった補助循環装置を用いて心臓の動きを助けたり、心臓を休ませて心臓の動きを回復させることを目指します
また、心不全治療と並行して、心不全の原因となる病気があればその治療も行います。
慢性心不全の治療
退院できるとはいっても、心不全が治ったわけではありません。
残念ながら心不全は、再入院をきたしやすいものです。一旦、症状が改善したとしても、引き続き適切な医療管理を続けることが薦められます。
慢性心不全の治療としては、適切な薬を使用すること、生活習慣など自己管理を行うこと、適度な運動といったものが軸になります。
夕陽ヶ丘ながいクリニックでは、循環器専門医として心不全入院から退院された後の定期診察のご相談も承っております。次に、クリニックで行う、慢性心不全の治療の全体像をお伝え致します。
慢性心不全の薬物療法
心不全の良好な管理には、お薬による治療が欠かせません。
心不全に対して用いられるお薬には、「心不全の症状を軽くするお薬」と「心不全の悪化を遅らせるお薬」があります。
心不全の悪化を遅らせるお薬
・アンジオテンシン変換酵素阻害薬
・アンジオテンシン受容体拮抗薬
・ネプリライシン阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬
・SGLT2阻害薬
・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
・β遮断薬
など、患者さんの状態に応じて薬剤が選択されます。
心不全の症状を軽くさせるお薬
・利尿薬
・強心薬
心不全の非薬物療法
薬による治療が難しい重症心不全の患者さんには、心臓の動きをペースメーカーで統一させる「CRT:心臓再同期療法」を考慮します。
また重症心不全では、命に関わる不整脈が出現することがあります。その際に電気ショックを与えて不整脈を止める「ICD:埋め込み型除細動器」が選択されることもあります
心不全の再入院率
息も絶え絶えで入院した後は利尿剤や、血管拡張薬など心不全に対する治療により、息苦しさは解消されます。
弱っていた心臓の機能も、ゆっくりと回復して日常生活に戻れるくらいになると退院となります。
問題はここからです。
2000年以降に日本で行われた心不全に関する研究では、心不全入院をされた方の1年後の再入院率は、20~30%とされています。
かなりの高確率で、また苦しい思いをして入院される方がいるということになります。
再入院率が高い、一度よくなってもまた悪くなってしまうというのが心不全の厄介なところです。
上の図をご覧いただきたいのですが、横軸が年月の経過で、縦軸が心臓や体の機能を表しています。
実は心不全というのは一度発症すると、入退院を繰り返すごとに徐々に心臓の機能が低下していく進行性の病態なんです。
退院できる状態というのは、心臓が元の元気な状態に戻ったというのではなく、入院管理が必要ないレベルには回復したということで、心不全が悪化する前の状態と比べると心臓の機能は確実に悪くなっていきます。
入院前よりも心臓の機能が低下しているので、今まで以上に入院が必要な心不全に至る可能性が高くなります。
年に1回の入院だったのが、だんだん再入院間隔が短くなって、退院後の翌月にはまた入院している。しまいには家に帰ることが出来ずに何カ月も入院生活が続く、一人で自立した生活を送ることが難しくなり介護生活が始まる。
こうなると、入院するご本人だけの問題だけではなくなり、支えるご家族などにも多少なりとも影響が及んできます。
このあたりも心不全の厄介なところだなと感じます。
では、心不全状態である方全員が、このような状態に陥るのかというと、そういうわけではありません。
実は心不全と診断を受けていても、一度も入院をせずに良好な状態で過ごせると、健康な方と同程度の生命寿命をたどれるとも言われています。
心不全はいかに良好な状態を保てるのかが重要となります。
心不全と心臓リハビリ
慢性心不全治療において、心臓リハビリテーションが治療ガイドラインで推奨されています。
適切な運動療法と、小まめなメディカルチェックを行うことで、心不全に伴う全身機能の低下を防止したり、改善させることが期待できます。心臓リハビリの継続により心臓が楽に動けるようになり、健康寿命を延ばすことにもつながります。
必須の治療手段と言われますが、実施している医療機関が少なく、その恩恵を受けられる方が限られているのが現状です。
もし、お近くに心臓リハビリを受けられる医療機関があれば是非受けられることをお薦め致します。
どの病気の治療も同じですが、医師を含めた医療従事者と、患者さんが二人三脚で病気に向き合う、治療していく姿勢が大切だと実感しています。
医師がいくら適切な治療を提案しても、患者さんが治療に前向きではなければ、治療効果も十分に得られない可能性もあります。
また、医師が適切な検査や投薬など、治療方針を決定または修正するためには、患者さんからの情報が必要です。
自覚症状の変化、体重や血圧の変化など、「何をしてどうなったのか」を患者さんから教えていただく必要があります。
そのために、日々の血圧や体重測定値の記録、内服状況の記録、自覚症状の記録など、患者さんにご協力いただきたいこともたくさんあります。
測定や記録など面倒なこともあるかと思いますが、適切な治療や、良好な治療効果を得るためでもありますので、体重測定や血圧測定などを医師から提案された際はご協力いただければと思います。
大阪天王寺・上本町近辺で心不全の長期的なサポート、心臓リハビリテーションなど、心臓病に関することのご相談は夕陽ヶ丘ながいクリニックまでお気軽にお申し付け下さい。