足を切断しないために

足の切断と聞いて皆さんはどう思われますか?
「交通事故を思い浮かべますか?」「何かの病気を思い浮かべますか?」

足の切断に至る原因はいくつかありますが、ここでは「血管原性切断」という血管が原因のものについてまとめていきます。

足の動脈硬化

①まず、足を栄養する血管が詰まってしまうことで、足の細胞への血流不足が生じます。



②この血流が不足した状態の足先に、小さな傷などができたとします。
血流が十分であれば、傷を修復しようと様々な物質が集まってきて、傷口を塞いでしまいますが、
血流が滞ている場所では、傷の治癒に時間がかかってしまいます。

③いつまでも傷がふさがらない、ジュクジュクするといった状態が続くと、傷口から入った菌などが増殖したり、細胞の死滅が止まらるどころか加速していきます。
組織が死滅し黒く変色してしまったものを、医療用語では「壊疽」と言います。



④壊疽の状態になると、ここから毒素が発生し、全身へ悪影響を及ぼすようになります。
最悪の場合、骨髄炎や敗血症などで命を奪いかねない状態にもなりますので、壊疽した部分を取り除く「足の切断」ということにつながります。



このように血管に異常をきたし、血流不足が生じることが大きな問題となります。
では次に、この血流障害を引き起こす血管の問題がどうして起きるのかを見ていきましょう。

血流障害の原因となる動脈硬化

狭心症や心筋梗塞といった心臓を栄養する血管の病気、または脳梗塞といった病気をご存じでしょうか?これらはどれもが血管が細くなったり詰まったりすることで生じる病気です。

その原因の多くは動脈硬化という血管の問題があげられます。
動脈は全身の細胞へ栄養や酸素を届けるための血液を通す管ですが、血管の壁の内側にコレステロールなどがたまり、瘤(こぶ)のようになって血流を妨げるようになります。
血流が完全に途絶えてしまうと、心臓や脳の細胞に多大なダメージを与えてしまう心筋梗塞や脳梗塞に至ります。



このような心臓や脳の血管の病気と同じことが足の血管でも生じます。
末梢動脈疾(まっしょうどうみゃくしっかん)や下肢閉塞性動脈疾患(かしへいそくせいどうみゃくしっかん)などと呼ばれます。

心筋梗塞や脳梗塞と同じように、命に係わる、またそこまではいかないにしても、日常生活を不便にしてしまうきっかけになりうる病気です。

血管を詰まらせる動脈硬化の原因は?

足の血管が詰まる要因となる動脈硬化は以下の様な方に起こりやすいとされています。

こんな方は要注意です

◆中高年の男性
◆狭心症や心筋梗塞で治療中の方
◆糖尿病の治療中の方、血糖値が高い方
◆高血圧の治療中の方、血圧が高い方
◆脂質異常症で治療中の方、コレステロール値が高い方
◆タバコを吸われる方

足の動脈効果が進むまで

ここからは、足の動脈硬化がなぜ起きてしまうのかを見ていきましょう。

血流障害を起こす動脈硬化は、加齢により誰でも進んでいきます。いわば血管の老朽化です。
しかし年齢以外にも、運動不足や喫煙習慣、食生活の乱れが続くことによって、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満といった生活習慣病を患うようになると、この動脈硬化の進展速度を速めてしまうことがわかっています。

特に疾患としては、糖尿病が重要です。糖尿病の方はそうでない方に比べて末梢動脈疾患の発生リスクが3倍以上、また下肢切断に至るリスクは30倍とも言われます。

また生活習慣としては「喫煙習慣」です。無数の有害物質が血管の機能を低下させ、末梢動脈閉疾患の発症の引き金というだけでなく、悪化速度を速めることになります。

足の血流が悪い時の症状は?

フォンティン分類という重症度別の症状分類がありますのでご紹介いたします。

◆初期段階では、

血流不足にともなう足の冷え、しびれなどを自覚するようになりますが、無症状のことも少なくありません。

◆中等度になってくると、

間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状が現れます。この段階で病院を受診し診断を受けることが多くなります。

間欠性跛行は、しばらく歩いているとふくらはぎや太ももがだるくなったり、しびれたりといった不快感が現れ、立ち止まるなど休憩が必要になります。
しばらく休んでいると症状は消失し、また歩けるようになりますが、しばらく歩くとまた痛くなってくる。歩く休むを繰り返して歩かないといけない状態を間欠性跛行と呼んでいます。

動くと足が痛むので、整形外科や整骨院に受診される方も少なくありません。
整形外科的には問題無いからと終わってしまうと、血管の治療を遅らせてしまうことにもなります。
間欠性跛行があれば、一度足の血管に狭窄がないのかを調べることをお勧めします。

また、糖尿病の方は神経障害などにより無症状で最終段階の壊疽まで進行することもあります。
痛みなどだけではなく、普段から足に小さな傷がないかなど目で足を見るということもとても大切です。

◆重症になると、

安静にしていても足が痛む、さらにひどくなると壊疽(えそ)、壊死(えし)といった命に関わる状態になります。

歩くと足が痛くなるのは何科?

捻挫や、打撲、動かし方によって痛みが変わる、腫れているなど、大きな力が加わったり、使い痛みなど明らかな原因が想像される場合には整形外科にご相談下さい。



一方で、いつからかはっきりしないけれど、足が冷える、足がしびれる、歩くと足(ふくらはぎや太もも)が痛くなって立ち止まると治まる、足のゆびが黒い、足先の血流が悪いなどがあれば、循環器内科にご相談下さい。

とはいても中々判断するのは難しく、いずれの場合においても、医療機関を受診して専門的な判断を仰ぐことが大切だと思います。

足の動脈硬化の怖いところ

足の血管を詰まらせる動脈硬化は、全身病として考えることが重要とされています。

治療ガイドラインであるTASCⅡによると、末梢動脈閉疾患の5年後には、その30%もの方が亡くなられていると報告されています。


また、大腸がんや乳がんの5年生存率と比較しても、同程度かそれ以上に死亡リスクが高いのがこの病気の特徴とされています。

末梢動脈閉塞性疾患の検査

足の血管が詰まっていることを検査する方法としては以下のものがあります。

◆動脈触診

膝下動脈、足背動脈、後脛骨動脈など、膝から足首にかけての動脈の拍動を触れることができるかを触診します。

拍動を触れることができない、また触れるが弱い場合には、血流障害が起きている可能性が考えられます。

◆ABI検査

腕と足首の血圧を同時に測定する検査です。

腕と足の血圧を比べた時に、足の血圧の方が高くなるのが正常です。
この検査で、足の血圧が低い(0.9以下)という結果は、「足へ向かう血管異常、血流障害が起きているのではないか」ということを疑わせます。

血管CT検査

血管の全体像を把握するのに適した検査です。
造影剤を用いて血管を浮かび上がらせ、狭窄部位を評価し、得られた情報を元に治療方針を決定することになります。

◆血管造影検査

カテーテルを用いて、血管内に造影剤を流し込み、レントゲンを用いて血管狭窄を評価します。

狭心症や心筋梗塞などの検査・治療にも用いられているものです。
狭心症を患っている場合は、足の血管も細く狭くなっている可能性が高いので、冠動脈の検査と合わせて足の血管も調べることもあります。

そのまま引き続き血管内治療(狭くなった血管を広げる治療)を行うことができます。

検査により、末梢動脈閉塞性疾患の診断がついたら、次は治療です。

末梢動脈閉塞性疾患の治療

①禁煙
②運動療法
③薬物療法
④血管内治療(カテーテルを用いた治療)
⑤外科的治療(血管バイパス術)
が挙げられますが、治療の3本柱が、禁煙、運動療法、薬物療法です。

特に病態が中等度まで、症状でいえば間欠性跛行がみられる時期では、病態の進行を止めるためにもこの3本柱がとても大切です。

◆禁煙

煙草には200種類以上の有害物質が含まれています。
最近増えている加熱式電子タバコも、複数の発がん性物質、血管を炎症させ動脈硬化を促す化学物質がタバコと同程度に含まれています。

たばこを吸い続けている状態では、どのような治療も十分な効果を期待することはできません。
後戻りできない状態になる前に禁煙に取り組まれることを強くおすすめ致します。

◆運動療法

運動療法は、筋肉が酸素を取り込む働きを改善させたり、側副血行路という、新しい血管が作られることで症状を改善させることが期待できます。

運動種目としては、歩行運動が推奨されます。途中で休憩をはさんでもかまいませんので、合計の歩行時間が30~60分となるようにします。
頻度としては週に3~5回を実施の目安にします。

◆お薬

禁煙、運動療法に併用して、血流を改善させるお薬が処方されることがあります。
お薬は後出しの対処療法であり、血管を詰まらせる動脈硬化の原因を取り除くことは期待できません。

繰り返しになりますが、禁煙と運動療法が何よりも大切です。

◆カテーテル治療、手術

狭窄が強すぎて症状の改善が見込めない、悪化してくるとなれば次は、血管内治療(EVT)や血管バイパス術です。

血管内治療(endovascular treatment:EVT)
血管内治療は、血管内に挿入したカテーテルを閉塞部位に到達させた後に、風船を膨らませて閉塞部位を押し拡げます。
風船で広げた部位が再度狭くなってこないようにステントという金属のメッシュを血管内に留置することが多くなっています。
このカテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞などで行う心臓カテーテル治療と同じで場所が心臓か足かの違いです。

血管バイパス術では、詰まっている血管をまたいで新たな血流の道をつくります。
バイパス術で用いる血管は、人工血管と自己血管とがあり、治療部位などにより決定されます。

足を守ることは、命を守ること

ただ、歩くと足がだるくなるだけと思っていたら、とんでもない病気に発展してしまった。
ということが無いよう、「足が冷えて困る」「歩くと足が痛くて何度も休憩が必要」などの症状があれば、一度医療機関を受診されることをお勧めします。

また、末梢動脈閉塞性疾患とすでに診断されている方、そうでなくても糖尿病を患っておられる場合は、足の指や足の裏など、普段は目で見ないような場所も毎日のお風呂の時などに確認しましょう。

擦り傷、切り傷、水虫、巻き爪など、些細で気になることがない時期から適切に対処することが足を守ること、しいては命を守ることになります。


足を守ることは、命を守ることにつながります。
足の冷え、足のしびれ、歩くと足(ふくらはぎや太もも)が痛くなることでお困りの方、大阪天王寺・上本町近辺でしたら夕陽ヶ丘ながいクリニックにご相談下さい。