こんにちは、心臓リハビリテーション指導士の東野です。
皆さんは普段の運動前にストレッチなどのウォーミングアップを行っているでしょうか?
心臓リハビリの標準的なプログラムとして、まずウォーミングアップ、次にメインの運動、多くは自転車やウォーキングといった持久系の運動。+αとして自体重でのスクワットや、ゴムチューブ、トレーニングマシンを使ったレジスタンストレーングを行い、最後に整理体操といった流れが多いのではないかなと思います。
大まかな流れは似通っているとしても、運動内容やそれぞれに費やす時間など、施設ごとに特色が出るんじゃないかなと思います。 ウォーミングアップにしても、どんな意味を持たせているのかも多様性がありそうです。
ということで、今回は当院の心臓リハビリテーション指導士がどんな考えをもってウォーミングアップを行っているのかを順にお伝え出来ればなと思いますので、ご興味あれば続きをご覧下さい。
目次
①体調の最終チェック
心臓リハビリテーションの場合、心臓や血管に病気をかかえた方の運動なので、それなりの注意が必要です。
安全に運動を行って頂くために、運動前の問診、血圧や体重チェックを行って、いつもと変わりないか、今日運動してもらってもいいのかを判断していくのですが、運動前に先生に相談しようかどうしようか多少迷うこともあります。
そんなビミョーな時は、少し体を動かしたときの様子を見てもう一度判断するようにしています。 心臓にかかわらず体の調子が悪くなり始めの時というのは、体を動かしてみないと異常を感じ取れないこともあります。
やっぱり運動やめといた方がいいかもしれないと、ウォーミングアップの段階で判断がつくこともあります。
結果的には、軽くならやってもいいよと医師から指示がでることもあるのですが、そのまま薬の調整が入ったり何かしらの検査や治療に向かうこともあります。
本来は問診の段階、運動を始める前に判断が出来るにこしたことはないのですが、見落とすこともあると自覚しているので、ウォーミングアップの段階での不整脈、心拍数、表情などの変化に敏感になるように集中しています。
ウォーミングアップ実施中に運動を中止した事例
来室時に前回に比べ体重が増えていた患者さん。
足のむくみはあるけど、普段と大きく変わりないように見える。
ご本人には別段自覚症状なく、ちょっと食べ過ぎたかもと。 その他血圧や心拍数に普段と異なる点もなかったので、運動可能と判断してウォーミングアップを開始しました。
するといつもと同じ内容のウォーミングアップで息切れを認めるのと心電図モニター上でも心拍数が高めでしたので、これは嫌な反応やなと、食べ過ぎによる体重増加じゃないなと運動中止して診察へ行っていただきました。
緊急性のある状態ではありませんでしたが、心不全増悪として少量の利尿剤追加となり帰宅されました。 翌日には体重が元に戻り、薬は2日程で中止となりました。
安静時では気づけないことも、体を動かして少し体に負荷をかけることで気づける異常もあります。
ただ流れとしてウォーミングアップを行うのではなく、ちゃんと意味を持たせて行う事を意識する重要性を再確認した事例でした。
②効率のよい呼吸が出来るように
心臓リハビリでは、呼吸の状態を見ながら行う運動の検査があります。
その検査データを見ていると、多くの方で呼吸の仕方に問題があるのが見て取れます。
呼吸は、息を吸い込む深さと、速さの2つのバランスが重要なのですが、多くの場合で浅くて早い呼吸が見受けられます。 深く息を吸い込む事が出来ないので、回数を増やして空気の交換をしています。
この浅くて早い呼吸の問題点としては、息切れ感を感じる一因となりますし、肺での空気の交換効率も良くありません。 単に意識の問題ですむ事もありますが、普段の姿勢や、体の構造上、息を深く吸い込めない状況になっているケースも少なくないと考えています。
一度試して頂きたいのですが、ご自身が思ういい姿勢で深呼吸をしてみて下さい。
これくらい空気を吸い込めているなと言う感覚を覚えていただいて・・・ 次、悪い姿勢ですね。
骨盤が寝てしまって背中も丸まっている、気にしないとよくやってしまう姿勢です(イラスト右)
この姿勢のまま、深呼吸をしてみて下さい。 どうでしょうか、先ほどと同じように深く息を吸えたでしょうか?
多分、お腹あたりでつっかえて深く吸い込めなかったのではないでしょうか? この姿勢だと、横隔膜がつっかえて動けなくなるので、息を吸い込みにくくなります。
もう一つ実験です。 今度は、両手を前で組んだ状態で深呼吸をしてみて下さい。
どうでしょうか? これも深く吸い込みにくい感じがしませんでしたか?
呼吸筋が強い方の場合は、筋力で無理矢理深く吸い込む事ができたかもしれませんが、多くの方では浅い呼吸になったと思います。
腕を前に組むことで胸郭の動きに制限ができたので息が吸いづらくなります。 腕を組まなくても、胸や背中、肩甲骨周りの筋肉の柔軟性が低下していたり、胸郭の可動性が小さくなっていると深く息が吸えなくなります。 深い呼吸が出来ないと、動いたときにすぐに息切れや疲労感をを感じる要因になります。
そこでウォーミングアップの時には、メインの運動中に呼吸がしやすくなるように、胸や背中、肩甲骨周りの柔軟性や可動性をだすことを狙ったストレッチを選んでいます。
また、呼吸のタイミングに合わせてストレッチ動作を行うなど、呼吸を意識すること、呼吸がしやすくなる姿勢を意識して頂くことを伝えながら、ウォーミングアップを行っています。
最後までご覧頂きありがとうございました。 今回は、当院の心臓リハビリテーション指導士がウォーミングアップ中に意識していることをお伝えしました。 心臓の病気がない方も、姿勢が悪くなったり筋肉が固まってしまうと効率の悪い呼吸になりやすく、動いた時の息切れにつながりますので、お風呂上がりや運動前に胸や背中、肩周りをほぐすような体操をしてみて下さい
関節に痛みなどがなければラジオ体操なども準備体操として取り入れるのもお勧めです。
【執筆者】東野 亮太(ひがしの りょうた)
【資格】心臓リハビリテーション指導士、健康運動指導士
【経歴】2008~2018年 関西医科大学付属病院、関西医科大学総合医療センター
2018~2019年 メディカルフィットネス開業運営
2020~2022年 医療法人糖心会べっぷ内科クリニック 心臓リハビリ科部長